ガラスの目 | 月に日に

      
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ガラスの目
その日、ボクはガーディアンズ・コロニーの中をひっきりなしに走りまわっていた。
目的は、とあるでっかいケーキ。
もうすぐボクとご主人様が出会えた「素敵記念日」が近づいてくるので
たぶんそんな事忘れているご主人様のために、ボクがちょっぴり素敵なサプライズを用意してやるのだ。
ご主人様だって女の子だもん。
きっと甘いものが大好きなはずだ。
きっときっと笑顔で喜んでくれるはずさ。


ボクは間違えて生まれてきてしまった。
まだボール状態だったボクに、ご主人様がせっせせっせと、武器やら銃やらお菓子やら
なんでもかんでも与え続けて溺愛した結果、どうにもこうにも能力が中途半端なマシナリーに仕上がってしまった。
そんなボクだけど、彼女はそう、言葉で表せば「目にいれても痛くないぐらい」ボクを可愛がってくれた。
合成はボクの姉妹たちにまかせ、ボクはこの姿のまま側にいることを許された。
彼女はボクとマヤ教官やライア教官と一緒にいることを好み、滅多に人前に出ることはなかった。
そう、彼女はとても努力家で、真面目で、そして、不器用な人だった。
女の子だからそんなに頑張らなくてもいいのに、もっとズルしたっていいのに。
こつこつと揃えた高級基盤も、その人のよさと押しの弱さからからホイホイと他人にあげてしまい、彼女をカモにするプレイヤーもいた。
時々ボクから見てハラワタが煮えくり返るような出来事もしばしばあった。
「なんでさ、なんでそんなに頑張って取ったソレあげちゃうのさ!」
う〜ん、と、彼女はちょっぴり困った顔をして、ポツリと言う。
「…友達、だから?」
そんなこと言われるともうボクは歯軋りして黙るしかない。
そんなん友達っていわないのさ、普通はさ。

パルムの服屋のショーウィンドーで立ち止まる。
ピンク色がアクセントの可愛らしい服が、立体フォログラフィに表示されていたのだ。
「これだっ!」
ボクは大興奮してそれを即買いしてしまった。
流行の最先端というわけではないが。女性らしいやわらかいシルエットの服は、ご主人様をさぞ可愛く見せてくれるだろう。お揃いのブーツも買った。
黒尽くめの初期服など着るより、ご主人さまのやさしさをより引き立ててくれるだろう。
『まあ、素敵!ありがとうジューン』
『…どうかなあ、似合うかなあ?』
はにかみながら更衣室を出てくるご主人さまを想像して、ボクは幸福の絶頂に浸った。
ボクは、そうだ。
彼女を笑わせたかった。
彼女がほんとに楽しそうにしているところを、ただ、見たかった。

そして、ボクが勝手に決めた「素敵記念日」がやってきた。
そ〜っと悟られないように巨大なケーキを設置し、リボンでくるんだお洋服をケーキの陰に置いた。
と、するとすかさずショップに客が入ってきたじゃないか。
しまった!鍵をロックするの忘れちゃったか。ああボクってなんてうっかり者。
しかたがないのでロックしてから接客する。
「いらっしゃいませ、S基盤からお菓子までなんでも揃う、春菜のお店へようこそ」
客はひとしきり品揃えをチェックした後、ボクがセッティングしたケーキに気がついたようだった。
「おっ?あれはウェディング・ケーキじゃないか!なあなあ、あれ売っておくれよ」
そのあつかましい客は、ご主人様の部屋にずかずかと上がりこんだではないか。
ちょ、何コイツ。
「あの、お客様それは売り物ではございません、お引取りください」
「いいじゃねえかよ、ここの店主は値引きしてくれるので有名だからな、ちょっと粘らせてもらうぜ」
あ〜〜〜っ!!
そのケーキにだけは触れてほしくなかった。
他のものは許せても、それだけは、絶対。
ボクは取り乱した。
「やめて、やめてください!」
覆い塞がったボクを「うっせーなこのチビ!」と、そいつは怒号し、小さな体は突き飛ばされ、そして、生クリームを飛び散らせてケーキの中にめりこんだ。
暗転。





「ぷーッ!」
笑い声でボクは意識をとりもどした。
「あははははーッ、あははははーっッ!」
目の前にはご主人様。見ればお腹をかかえて苦しそうに笑っている。
「や、やあ、お帰りご主人様…」
なんと言ったらいいのか。つまりのこと、全身生クリームまみれのボクのこの姿がウケているらしい。
あんなに笑うご主人様を見たのは、初めてのことで。
なんというか。バツが悪いというか。ボクも釣られて苦笑いした。
「なんでこんな姿になっちゃったの。それにそのケーキでっかすぎ〜」
ご主人様にはうっかり転んだと説明しておいた。
それがさらに追い討ちをかけたらしくて、彼女の笑いは止らなくなってしまった。
涙まで流して笑ってる。
「なあに?このケーキはお祝いなの?ジューンが用意してくれたの?」
うんうん、と頷く。
「そっかあ、ありがとう」
ぽろんぽろん。彼女が泣き出した。
今度は彼女の涙が止まらなくなってしまった。
この世には嬉しいと泣いてしまう人種がいることを、今、初めて身を持って知った。
彼女の光を映さないガラスのような目から、ぼろんぼろんと大粒の涙がこぼれ続けて、ボクはただ、彼女の側でそれを見守り続けた。
普段そんなガマンしないで、もっと小出しにして泣けばいいと、思った。

あの後、ボクの用意したお洋服は、想像どおり彼女に似合い、ことのほか気に入ってもらい愛用してくれているので、とても大満足だ。
そんな彼女に声をかけるプレイヤーも増えて、友達も増えてきて喜ばしいことだ。
ボクはといえば、自慢のナックルも気に入っていたが、斧を装備してみたらけっこう似合い、ちょくちょく彼女と一緒に着替えを楽しんでいる。頭につけたリボンも結構気に入っている。

…結局、あの日、くずれたケーキを二人できれいにたいらげたのは、二人だけのヒミツだ。

| 小鳥 | 13:19 | comments(3) | trackbacks(0) |
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Comment
一人称がボクのにゃんぽこか…いい話だなぁ。

愛を注いだ分だけ返そうとするなんて涙ぐましいと言う物です。

ウチの430は…戦闘からっきしだけど。やっぱり可愛いわ。うん。
Posted by: まぐざむ |at: 2007/10/12 9:05 PM
読み終わったときに、思わずによによしてしまういいお話ですな!

私もいい加減に続きを書かねばww
Posted by: ウコン |at: 2007/10/13 10:07 AM
まぐさん、ウコンしゃん
貴重なご感想ありがとうございます*^^*
書いた人には面白ろいのかそうでないのか全然わかんなくって。
によによしてもらえたら、嬉しいな!
Posted by: 小鳥 |at: 2007/10/13 9:55 PM








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